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へちまのき
へちまの木
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页
おそでがまたなにか投げつけた。文華は襖をあけて逃げだし、廊下へ平伏した。あいにくなことに、女中が掃除したばかりだろう、こっちの記事部屋の障子がまだあけたままなので、平つく這った文華の、痩せた小さな、貧相な姿はまる見えだった。
「このとおりや」と文華は廊下へ額をすりつけた、「泊ることはつきあいで泊ったが、おなごと寝たりなんぞしやへん、それは誰にきいてみてもわかることや、な、堪忍して、このとおりや堪忍して」
「岡場所みたいなとこへ泊って、おまえが女も抱かずに寝る男か」
「ほんまのことやて」と文華は云い張った、「自分でもなぜかいなあと思ったくらいや」
おそでがきーっと叫び、またなにかを投げた。それは湯呑茶碗で、廊下へ叩きつけても割れず、記事部屋までころげて来た。文華は堪忍や堪忍やと云いながら、平つく這ったまま、頭を上げたり額を廊下にすりつけたりした。ばったのようにという表現を絵にしたような感じで、房二郎はどうにも見ているに耐えず、立ちあがって、刷り部屋から廊下へ出、階段をおりて店へいった。そこへ木内桜谷がはいって来たので、彼は眼くばせをし、二階を指さして頭を振った。