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やぶからし

やぶからし

山本 周五郎

「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页

青空文庫

早朝から寝るまでのあいだ、養父の登城、下城はいうまでもなく、こまごました家事雑用にいたるまで、その刻限や順序がきちんときまっていて、ゆとりとかうるおいなどというもののはいる余地は少しもなかった。家族の関係も同じように、夫妻のあいだも兄妹の仲も、他人の集まりのようにばらばらで、よろこびや悲しみ、憂いやたのしみ、愛情や劬りなど、一つとして共通のものはなかった。憎みあうことさえもないよそよそしさ、それがわたくしには耐えがたいものであった。

細貝家へ輿入れをして来て、化粧の間で支度を直していると、舅の八郎兵衛と姑のさち女がはいって来た。舅はやや肥えた躯の大きな人で、血色のいい顔に温和な微笑を湛え、眼をほそめてわたくしを見ながら、ゆっくりと幾たびも頷いた。姑は小柄であるが、肉づきの柔らかそうな躯つきで、話す声は娘のように細くてきれいなひびきをもっていた。

おとうさまは黙って、微笑しながらやさしく頷いただけである。おかあさまは羨ましいほどきれいなお声で、まあ可愛い花嫁だこと、と云いながらわたくしの髪に櫛を当てて下すった。ただそれだけのことなのだが、わたくしは双の乳房の奥に痛みが起こったほど激しく感動し、とうとう本当の父母に会うことができた、と思った。