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ゆうれいかしや
ゆうれい貸屋
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,320 字 · 42 页
ふざけているようにもみえたが、ともかくも寝床を敷いて寝かした。彼女は夜中まで鼾きをかいて眠っていて、それから眼をさまして、「ぼんのくぼで、蟻が行列をやっている」
などと云いだした。追っぱらってくれと云うので、よく見たが蟻などはいなかった。
「いないことはないよ、よく見ておくれよ」
母親は子供のむずかるようにせがんだ。
「ほらほら、ぼんのくぼから頭へ行列してるじゃないか、ほら髪毛の中へぞろぞろはいってゆくよ、ああいやだ、追っぱらっとくれよ、額のほうまで行列して来るよ」
そしてほどなく、うーんと唸った。気持のよさそうな、ああいい心持だというような唸り方であった。それが死ぬ合図であった。
弥六はもとから、勤勉とはいえなかった。だが母親が亡くなると、初めて本性を現わした。仕事をすれば慥かな腕をみせるが、だんだん仕事をしなくなっていった。そうかといって、道楽をするわけでもなかった。父親と違って彼は酒を飲むし煙草もすう。おんなあそびも避けはしない。だが、無ければ無いでも済んだ。
「浮かない顔をしてるわね、あんた、お酒でも買って来ようか」
女房がそう云うと、彼は欠伸をする。