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ゆうれいかしや

ゆうれい貸屋

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,320 字 · 42 页

青空文庫

「よく云った、そいつあ本物だ」家主は横手というものをぽんと打った。

「亡くなった父母に見て貰おうてえのは冗談ごとじゃあねえ、弥六、おめえよくそこに気がついてくれた、おらあ嬉しいぜ」

「あっしのほうが、よっぽど嬉しい」

「これで、弥八もおふくろもうかばれる。お兼さんにもすぐ知らせよう、お兼さんがどんなに喜ぶか、……きっと泣きながらとんで来るぜ、泣きながら」

平作老は眼をこすった、「いいか弥六、こんだあぐれるなよ、お兼さんを大事にするんだぞ、いいか、ああ読んでやる、読んでやるとも、おれの一世一代だ、十万億土へ響きわたるくれえ立派に読んでやる」

家主の平作老は、仏壇の前へいって坐り、もういちど鉦を鳴らし、やがて静かに般若心経を誦し始めた。

「これで成仏してくれお染」弥六も合掌しながら、心のなかでこう云った。

「紙屑買い屋も爺さんも婆さんも、浮気娘もついでに成仏してくれ、頓証菩提、なむあみだぶつ」

ゆうれい貸屋という、前古未曽有な、しかもすばらしく有利な事業は、こうして不幸にも創業まもなく解消した。世に有難きは女のまことであり、恐るべきは女の嫉妬である。

今に至るも、この商売は絶えて行なわれないが、誰か開業のお志のある方はないか。