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アパートのさつじん
アパートの殺人
平林 初之輔
「新青年 第一一巻第九号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,579 字 · 39 页
それからこの薬品のそばに蜜柑の紙袋がおいてありましたが、中味は大部分皮ばかりだったと思います。何でもナルコポンの注射をするとあとで咽喉がかわいてしょうがないというので、しょっちゅう蜜柑ばかり食べていました。よくあれで身体が黄色くならぬものだと不思議に思ったものです。
床にはカーペットが敷いてありました。カーペットの上は埃でよごれて、電気スタンドの不必要に長いコードがうずを巻いており、その上や周囲には、紙屑や蜜柑の皮などが一面に散乱して、前の晩に眠るときに読んだものと見えて、二三枚の夕刊が散らばっていました。元来みさをは、物臭な、だらしのない女で、よくよく汚くなるまで掃除をせずにいるので、掃除といえばいつも普通の家の大掃除のような騒ぎでした。
ベッドの上はベッドの上で、ひどく乱雑に取り乱されており、裾の破れた友禅縮緬の長襦袢や、伊達巻や、足袋や、腰紐や、腰巻までも脱ぎすててのせてありました。掛け布団は近頃新調した、新しい錦紗の布団でしたが、その下から毛布がはみ出して、だらりとカーペットの上へ垂れ下がっていました。こんなことを申し上げる必要があるかどうか知りませんが、あの女は、寝るときは、すっかり裸になって寝るのが習慣でした。