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アパートのさつじん
アパートの殺人
平林 初之輔
「新青年 第一一巻第九号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,579 字 · 39 页
四 松木久作の証言
その時はちょうど十一時でした。
四 松木久作の証言
○○製菓会社常務取締役松木久作は、年齢五十歳のでっぷり太った紳士で、つい一ヶ月前から、東京キネマの重役某の紹介で山上みさをのパトロンとなっていたのである。
…………………………
私は昨夜、一時前にみさをのところへ来て今朝まで泊まっていました。みさをの面倒をみるようになってから、日曜の晩にはずっと泊まってゆくことになっていたのです。もちろんそのほかの晩にも来ましたが、たいてい一時前には帰ってしまうことにきめていました。
今朝眼がさめたのは九時頃でした。みさをはまだ眠っているようなので、起こすのは気の毒だと思って、昨夜眠りがけに読んでいた毎夕と読売の夕刊を床の上でひろげて読んでいましたが、さびしくなったので、彼女をそっと起こしてやりました。
みさをは眼をさますと、しばらく頭が痛いと言って不機嫌でした。いつでも朝眼がさめたときはあの女は不機嫌なんです。
でもしばらくするとベッドの上に起き上がって、脚を布団の上へ出して、股のあたりへ、ナルコポンの注射器をさしていました。はじめのうちは、私も口を酸っぱくしてとめたんですけれど、ほかのことは私のいうことは何でもききましたが、あれだけは、どうしてもきかないもんですから、近頃はそばで見ていてもとめもしなかったんです。