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アパートのさつじん
アパートの殺人
平林 初之輔
「新青年 第一一巻第九号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,579 字 · 39 页
どんな小さいものでも身体についていると、気になって眠れないのだそうです。
こうした乱雑な室の、乱雑なベッドの中でみさをは、燃えるような真っ赤な顔をして、蜜柑をたべてはバットをふかしていました。真っ赤な顔をしていたのはナルコポンの注射のせいです。あれの注射をしたあとは、いつでもああいう風でした。そしてその時は本人は夢でも見てるようないい気持ちなんだそうで、いつもきまってひどくおしゃべりになるのです。もっとも常からおしゃべりの方ではありましたが。
私は室の中へはいると、先刻も申し上げたように、真っ先に灰皿の中にある敷島の吸い殻が眼にとまりました。誰か来たのじゃないかという疑いが起こったからです。別だん彼女のそぶりに変化が見えたというわけでもなかったのですが、どういうものか、私は、最近彼女の様子が少し変だという風に直観していたのです。私はこんな頑丈な身体をしておりますけれど、ひどい焼きもちやきなんです。自分でもはずかしい程なんです。それに彼女の性質といい境遇といい、職業といい、いったん疑い出したが最後、疑う材料はいくらもあるんです。――で、私は、敷島の吸い殻が心配になってたまらなかったのです。