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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

廣介は驚いて、倒れかかる千代子の身体を支えました。

「エエ、何ですか頭が痛くって……」

むせる様な香気が、例えば汗ばんだ人間の肉体から発散する異臭に似て、併し決して不快ではない所の香気が、先ず彼女の頭の芯をしびれさせたのです。それに、不思議な花の山々の、無数の曲線の交錯が、まるで小舟の上から渦巻き返す荒浪を見る様に、恐しい勢で彼女を目がけておし寄せるかと疑われたのです。決して動きはしないのです。でもその動かぬ丘陵の重なりには、考案者の不気味な奸計が隠されていたとしか考えられません。

「私、何だか恐しいのです」

漸く立直った千代子は、目をふさぐ様にして、僅かに口を利きました。

「何がそんなに恐しいの」

廣介は脣の隅に、ほのかな笑いを震わせて聞きました。

「何だか分りませんわ。こんなに花に包まれていて、私は無上に淋しい気がいたします。来てはならない所へ来た様な、見てはならないものを見ている様な気持なのですわ」

「それはきっと、この景色が余り美しいからだよ」廣介はさり気なく答えました。「それよりも、御覧。あすこへ、私達の迎いのものがやって来たから」

とある花の山蔭から、まるで御祭の行列の様に、しずしずと一組の女達が現われました。