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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

少しばかり心配なのは、彼女の悲鳴が、花火の筒を通して、遙かの地下へ伝わりはしないかということでしたが、幸いにも彼女の上陸したのは、それの反対側でしたし、又地下の花火打上装置のすぐ側には、発電用のエンジンがひどい音を立てていて、滅多に地上の声などが聞える筈はないのでした。それにもっと安心なのは、丁度今十幾発目かの花火が打上げられて、さっきの悲鳴はその音の為に、殆ど打消されて了ったことです。

まだ消えやらぬ、金色の火焔は、あちこちと出口を探して逃げ惑う千代子の痛ましい姿を、まざまざと映し出しています。廣介は一飛びに彼女の身体に飛びついて、そこへ折重なって倒れると、何の苦もなくその首に両手を廻すことが出来ました。そして、彼女が第二の悲鳴を発する前に、彼女の呼吸はもう苦しくなっていたのです。

「どうか許してくれ、俺は今でもお前を愛している。だが俺は余り慾が深いのだ。この島で行われる数々の歓楽を見捨てることが出来ないのだ。お前一人の為に身を亡す訳には行かぬのだ」

果てはぽろぽろと涙をこぼして、廣介は「許してくれ、許してくれ」を連呼しながら、益々固く腕を締めて行きました。