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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

二十四

それらのすばらしい舞台での日夜を分たぬ狂気と淫蕩、乱舞と陶酔の歓楽境、生死の遊戯の数々を、作者は如何に語ればよいのでありましょう。それは恐らく、読者諸君のあらゆる悪夢の内、最も荒唐無稽で、最も血みどろで、そして最も瑰麗なるものに、幾分似通っているのではないかと思われるのですが。

二十四

読者諸君、この一篇のお伽噺は、ここに目出度く大団円を告げるべきでありましょうか。人見廣介の菰田源三郎は、かくして彼の百歳まで、この不可思議なパノラマ国の歓楽に耽り続けることが出来たのでありましょうか。いやいや、そうではなかったでしょう。古風な物語の癖として、クライマックスの次には、カタストロフィという曲者が、ちゃんと待ち構えていた筈です。

ある日のこと、人見廣介は、ふと、何故とも知らぬ不安に襲われたのでした。それは若しかしたら、世に云う勝利者の悲哀であったかも知れません。絶え間なき歓楽から来た一種の疲労であったかも知れません、或は又、過去の罪業に対する心の底の恐怖が、ソッと彼のうたた寝の夢を襲ったのであったかも知れません。併し、その様な理由の外に、ある一人の男が、その男の身辺を包む空気と一緒に、ソッとこの島へ持って来た、不思議な凶兆とも云うべきものが、或は廣介のこの不安の最大の原因ではなかったのでしょうか。