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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

「例えばですね」

「例えば?」

「例えば、このコンクリートの壁にくっついている一本の髪の毛ですよ」

北見小五郎はそういって、かたわらの大円柱の表面の蔦を分けて、その間に見える白い地肌から、優曇華の様に生えている、一本の長い髪の毛を見せました。

「あなたは多分、これが何を意味するか御承知でしょうね。……、オット、それはいけません。あなたの指が引金にかからぬ先に、ごらんなさい。私の弾が飛び出しますよ」

北見はそういって、右手に持った光るものをさしつけました。廣介はポケットに手を入れたまま化石した様に、動けないのです。

「私はこの間から、この一本の髪の毛について考えつづけていたのです。そして、今あなたとお話ししている間に、やっと真相にふれることが出来ました。この髪の毛は一本丈け放れたものでなくて、奥の方で何かに続いているということを確めることが出来たのです。では今それをためして見ましょうか」

北見小五郎は云うかと思うと、やにわにポケットから大形のジャック・ナイフを取り出して、髪の毛の下のあたりを目がけて、力まかせに突き立て突き立てしたのです。するとコンクリートがバラバラとこぼれて、やがて巖乗な刃物が半ばもかくれたかと思うと、その刃先を伝って、真赤な液体がタラタラと流れ出し、見るまに白いコンクリートの表面にあざやかな一