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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

もう十一時近くになっていました。彼の計画に取っては丁度頃合いの時間なのです。

さて彼は、物凄い闇の墓場に、鍬をふるって、世にも恐るべき墓掘りの仕事を始めるのでありました。新墓のこととて、掘り返すのに造作はありませんが、その下に隠れているものを想像すると、数日来多少場数を踏み、貪慾に気の狂った彼とても、云い難き恐れの為に、戦慄を感じないではいられませんでした。が、何を思う暇もないのでした。十回も鍬を下したかと思うと、もう棺の蓋が現れて了ったのです。

今更ら躊躇している場合ではありません。彼は満身の勇を振って、その、闇にもほの白く見えている白木の板の上の、土を取りのけ、板と板との間に鍬の先をかって、一つうんと力を入れると、ギギ……と骨の髄に響く様な音を立てて、併し難なく蓋は開きました。その拍子に、まわりの土が崩れて、サラサラと棺の底へ落ちるのさえ、何か生あるものの仕業の様に感じられ、彼は命も縮む思いをしたことです。蓋を開くと同時に、名状し難き異臭が彼の鼻をつきました。死んでから七八日もたっているのですから、源三郎の死体は、もう腐り始めたのに相違ありません。