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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
若しその理想を実現することが出来たなら、そこには、一婦人の魅力などとは、比べものにもならぬ程、強く烈しい陶酔の世界が、お前を待受けているのではないか。まあ考えて見るがいい。お前が日頃幻に描いている、理想境の、たった一部分丈けでも思出して見るがいい。それに比べては、一人と一人の人間界の恋などは、余りに小さな取るにも足らぬ望みではないか。眼先の迷いに駆られて、折角の苦労を水の泡にしてはいけない。お前の慾望はもっともっと大きかった筈ではないのか」
彼はそうして、現実と夢との境に立って、夢を捨てることは勿論出来ないけれど、といって、現実の誘惑は余りに力強く、二重三重のディレンマに陥り、人知れぬ苦悶を味わねばなりませんでした。
が、結局は、半生の夢の魅力と、犯罪発覚の恐怖とが、千代子を断念させないでは置かなかったのです。そして、その悲しみをまぎらす為に、千代子の物淋しげな、憂い顔を、彼の脳裏からかき消す為に、それが本来の目的でもあるかの如く、彼はひたすら、彼の事業に没頭するのでありました。
巡視から帰ると、彼は先ず最も目立たぬ株券の類を、私かに処分せしめて、それを以て理想境建設の準備に着手しました。