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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

ものもないのでした。

廣介には、云うまでもなく、この千代子の悲しみが、分り過ぎる程分っていました。多くは、沖の島の事務所に寝泊りをするのですが、時たま邸に帰っても、妙に距てを作って、打ちとけて話合うでもなく、夜なども、殊更ら部屋を別にして寝む様な有様でした。すると、大抵の夜は隣の部屋から、千代子の絶え入る様な忍び泣きの気勢がして、でも、それを慰める言葉もなく、彼も亦、泣き出したい気持になるのがお極りなのです。

仮令陰謀の暴露を恐れたからとは云え、この世にも不自然な状態が、やがて一年近くも続いたのは、誠に不思議と云わねばなりません。が、この一年が、彼等にとっての最大限でありました。やがて、ふとしたきっかけから、彼等の間に、不幸なる破綻の日がやって来たのです。

その日は、沖の島の工事が、殆ど完成して、土木、造園の方の仕事が一段落をつげたというので、重だった関係者が菰田邸に集り、一寸した酒宴を催したのですが、廣介は、愈々彼の望みを達する日が近づいたというので、有頂天にはしゃぎ廻り、若い技術者達もそれに調子を合せて騒いだものですから、お開きになったのはもう十二時を過ぎていました。