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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

彼は学校にいる時分から、プラトー以来の数十種の理想国物語、無可有郷物語を、世にも熱心に耽読しました。そして、それらの書物の著者達が、実現すべくもない彼等の夢想を、文字に託して世に問うことによって、せめてもの心やりとしていた、その気持を想像しては、一種の共鳴を感じ、それを以て、彼自身も僅かに慰められることが出来たのでした。それらの著書の中でも、政治上、経済上などの理想郷については、彼は殆ど無関心でありました。彼の心をとらえたのは、地上の楽園としての、美の国夢の国としての、理想郷でありました。それ故、カベーの「イカリヤ物語」よりはモリスの「無可有郷だより」が、モリスよりは更にエドガア・ポオの「アルンハイムの地所」の方が、一層彼を惹きつけるのでした。

彼の唯一の夢想は、音楽家が楽器によって、画家がカンヴァスと絵具によって、詩人が文字によって、様々の芸術を創造すると同じ様に、この大自然の、山川草木を材料として、一つの石、一つの木、一つの花、或は又そこに飛びかう所の鳥、けもの、虫けらの類に至るまで、皆生命を持っている、一時間毎に、一秒毎に、生育しつつある、それらの生き物を材料として、途方もなく大きな一つの芸術を創作することでありました。