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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
十七
た。そして、腕白小僧がじだんだを踏む恰好で、二本の足が中有にもがき、やがて、白い足の裏丈けが、頭上遙かに揺曳して、遂に裸女の姿は眼界を去って了ったのです。
十七
この異様なる海底旅行によって、千代子の心は、人間界の常套を逃れ、いつしか果知らぬ無幻の境をさまよい始めていました。T市のことも、そこにある菰田家の邸のことも、彼女の里方の人達のことも、皆遠い昔の夢の様で、親子も夫婦も主従も、その様な人間界の関係などは、霞の様に意識の外にぼやけて了って、そこには、魂に喰い入る人外境の蠱惑と、それが真実の夫であろうがあるまいが、ただ目の前にいる一人の異性に対する、身も心も痺れる様な思慕の情のみが、闇夜の空の花火の鮮かさで、彼女の心を占めていたのです。
「さあ、これから少し暗い道を通るのだよ。危いから手を引いて上げよう」
やがて、ガラスの道の途切れる箇所に達すると、廣介は優しく云って千代子の方を振りむきました。
「エエ」
と答えて、千代子は彼の手にすがるのです。
そして、道は突然暗くなって、岩石をくり抜いた洞穴の様な所へ折れ曲って行きます。人一人やっと通れる程の、狭い道です。