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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
そして、あれあれと云う間に、もう二十段ばかりも昇って了ったのです。
「そらね、ちっとも怖くはないだろう。さあもう一息だ」
そして、二人は一段一段と昇って行ったのですが、不思議なことには、間もなく頂上まで昇り切って了うと、下で見た時には幾百段とも知れず、空まで届き相であったのが、実際は百段もあるかなしで、決してそれ程高いものではないのです。それがどうしてあんなに見えたのか、臆病故の錯覚としても、余りにその差が甚しく、千代子は不思議に堪えられませんでした。後に至って分ったことですが、先刻海底で鮟鱇を太古の怪物と見誤った様な、丁度あれに似た幻覚が、この島全体に満ち充ちている様な気がして、それ故に一層そこの景色が美しいのだとも思われるのです。そして、今の階段の高さの相違などもその一つに算えることが出来ました。彼女は、併し、それがどの様な理由によるものか、廣介から詳しい説明を聞くまでは少しも分らなかったのです。
それは兎も角、彼等は今、階段を昇り切った高地に立って、彼等の行手を眺めました。
そこには狭い芝生の傾斜があって、それを下ると道は直ちに鬱蒼たる大森林に入っています。