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ヨブきこうえん
ヨブ記講演
内村 鑑三
丸の内の大日本私立衛生会館における内村聖書研究会においてのヨブ記講義、1920(大正9)年4月25日~6月27日、9月12日~10月10日、10月24日、11月21日、12月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 92,828 字 · 185 页
しかしヨブにまた危惧がないではなかった。そは彼ら三人もまたあるいは彼の真の心を解し得ないではあるまいかとの疑であった。それは青空に一抹の黒雲を望み見て、雨の襲来を虞るる旅人の心と同じ虞れであって、心より払わんとするも払い得ない一種の雲影であった。
◯一方エリパズら三友は、来り観て想像以上の悲惨なる光景にまず吃驚し、同情と共に一種の疑の起るを防ぎ得なかったのである。多分彼らは途中ヨブについて種々の悪評を耳にしこれを打消しつつ来りしも、疑もなくそれはある暗示を彼らに与えたに相違ない。そして彼らいよいよ来り見ればあまりに陰惨なる有様よ! あまりに大なる変化よ! 町の外に逐われて乞食の如く坐し悪腫全身を犯すその惨状よ! 疑うヨブあるいは隠れたる大罪を犯してこの禍を受けしにあらざるか。彼れ信仰に堅く立ち行う所正しからんにはかくまで大なる禍に会する道理なきにあらずやと。同情のみが彼らの心を占領したらんには、彼らはただちにヨブに近いて篤き握手をなし以て慰藉の言を発したであろう。しかるにいかにその驚き大なりしとはいえ、七日七夜地に坐して一語をも発しなかったというのは、彼らの心に同情のほかに右の疑が擡頭していた事を示すものであると思う。