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なのかななよ

七日七夜

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1951(昭和26)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,818 字 · 36 页

青空文庫

一

一

本田昌平は、ものごとをがまんすることにかけては、自信があった。

生れついた性分もあるかもしれないが、二十六年の大半を、そのためにも修業して来た、といっても不当ではない。三千石ばかりの旗本の四男坊というだけで、わかる人にはわかると思う。そのころ世間一般に、

――二男三男は冷飯くらい、四男五男は拾い手もない古草鞋。

などという失礼な通言があった。士農工商ひっくるめた相場で、なかでも侍はつぶしが利かないのと、体面という不用なものがあるだけ、実情はいちばん深刻だったと思う。

その朝も昌平はがまんした。

「飯のことで怒るなんてあさましい、男が怒るならすべからく第一義の問題で怒らなくちゃいけない、たかが腹の減ったくらい」

そんな独り言を云って下腹へ力をいれてみたり、深呼吸をして、机に向ってみたりした。机の上にはやりかけの写本がある、擬古体のごく嬌めかしい戯作で、室町時代の豪奢な貴族生活、特に銀閣寺将軍の情事に耽溺するありさまが主題になっていた。彼は数年来この種の書物を筆写し、不足な小遣を補なってきた。内職などは厳重に禁じられているし、ものがものだけに極秘でやらなければならないが、手間賃の割がいいのと、自分も艶冶な気分が味わえる点とで、ちょっと一挙両得的な仕事だったのである。