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「もくせい」ごうのなぞ

中谷宇吉郎集 第六巻

中谷 宇吉郎

中谷宇吉郎『中谷宇吉郎集 第六巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:「もく星」号の謎、温泉2、海底の散歩、吉右衛門と神鳴、国際雪氷委員会のことなど、古代東洋への郷愁、身辺雑記、長岡と寺田、八戒に遭った話、亡び行く国土、牧野伸顕伯の思い出、湯川秀樹さんのこと、露伴先生と神仙道、私のふるさと、私の履歴書、ケリイさんのこと、コロラド通信。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,784 字 · 269 页

青空文庫

『父』の中に、文さんが、露伴先生の心霊が正に肉体を離れようとする情景を見た時の記載がある。二十七日の夜中、停電があった。蝋燭はない。重態の父の枕頭、闇の沈黙に耐えかねた文さんはマッチを擦った。「ほとばしり出る焔につづいて軸木に油が熔けわたり、しづかに縮まつて行き、尽きようとして煙草盆へ放し落したとき、父が身じろいだやうだつた。不安になつてもう一本しゆつと擦つて、ちよつとかかげた。揺いでゐた」。この時の文さんの前には、枕のはしに落ちそうになっている露伴先生の頭があった。それは「まるで父にして父でなき、ものだつた。眼のまはり・こめかみ・頬・口辺、げそつと隈どり削げて、その眼。義眼もまだいい、魚族の眼もまだましだ。しかし父の眼だつた。いや誰かの眼だつた」。文さんの頭からさっと血が引いた。「火が消え、いやな気持が濃くなり、父のそばから離れたかつた。逃げたかつた」。文さんはガラス戸を開けて外へ出た。「外の空気は、部屋の中より蒸し暑く、蜘蛛の巣のやうな何かが顔へぺたぺたした。こはいつとどなりたかつた。やがて電気がついた。父はいつもの通りしづかにしてゐる。あけがた近いと知れてゐたが、異常な睡さだつた」