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かずえはいそがしい
主計は忙しい
山本 周五郎
「奇譚」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页
「はあ承知しました、しかし江の島へいらっしゃるって、なんです、なにか御用でもあるんですか」
「お客さまが待っておいでですわ、もういらっしゃいまし」折江はやれやれという風に頭を振った、「――江の島から鎌倉へ見物にゆくということは半年もまえからの話で、よく御存じの筈ではございませんの、貴方のお忙しいことを知っていますから、がまん致しますけれど、……いいえようございますわ、いらっしゃいまし、ただあのことだけはお忘れのないようにお願い致しましてよ」
「はあ慥かに、必ずこんどは大丈夫です」
接待には五人の客が待っていた。三人は若い武家の入門希望者であった、彼はそれを杉原兵庫助にひきついだ。腕の程度をみて入門の諾否をきめるのである。他の一人は麹町の秋元但馬守の家臣で、「出稽古に来て貰いたい」という相談、もう一人は下谷の横川又右衛門という剣法師範の使者で、「三月某日、芝愛宕山で奉納試合をするが、そのとき当道場からも参加して貰えますか」という申込みであった。この二つは自分の一存ではきめられない、待たせておいて師の部屋へいった。――そこはこの建物の西の端にあり、榁の木を林にした庭に面し、西側の窓の外は竹藪になっていた。