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かずえはいそがしい

主計は忙しい

山本 周五郎

「奇譚」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页

青空文庫

三

「鯉濃汁があるんですか、もちろん頂きますとも」

「この頃だいぶお帰りがおそいのですね」母親は汁を温ために立ちながら云った、「――お忙しいのだろうけれど、こんなにおそくなるのなら食事をなすって来なければ毒ですよ」

「でも食事は家のに限りますからね、母上のお手料理を頂いてはよそのは喰べられやしません、まったくですよ」彼は母の追及を避けるために無意味な言葉を続ける、「――源助はまたあさって来るんですか、へえ、百姓はうまくいってるんですね、下男としても使える男だ、だから百姓でも相当でしょうね、いちど私も会いたいのだけれどこう忙しくては……」

三

武家は朝の早いものであるが、牧野ではどこより早起きで名がある。一年じゅうとおして午前四時には全家族が朝食をする定りで、病臥公用でない限りこの家法から除外されることは決してない、――主計は三時ちょっと過ぎに起きると、顔を洗うまえに妹の部屋へいった。たまきは鏡に向って髪を梳いていた、今年十八歳になる、躯も大柄だし顔かたちも派手なので、主計は「饅頭牡丹」という綽名をつけ、たいへん泣かれたし父親に怒られたことがあった。

「やあお早う、もう起きてたのかい」