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かずえはいそがしい

主計は忙しい

山本 周五郎

「奇譚」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页

青空文庫

始めた。

「いいえそうじゃないんですよ、ようござんすか、つつんつんつん、ちちちつんつつん、萩のしずくのはらはらと、しいずうく――こう張るんです、はい」

「私は張ってる積りなんだがね、――萩の、しいずうくう……」

「いいえ、しいずうく――ですよ、はい」

まる一時間「萩のしずく」でいじめられ、汗のしずくを拭って立上ると、まっしぐらに虎の門外にある永井家の上屋敷へ帰り、殆んど門限ぎりぎりにとびこんだ。家では朝が早いから父も妹もたいていは寝ている、母親だけはどんなにおそくとも食事のしたくをして待っていてくれるが、この頃は特に帰りのおそいことが続くので、それとなしに探るような眼で見られるのがうるさかった。

「あたしたちの後だけれど風呂へおはいりなさらないか、暫くはいらないのでしょう」

「なに毎日二三度も水を浴びますから」

「水では垢はおちませんよ、ざっと流していらっしゃいな、そのあいだにお汁を温ためておきますから」

「いや御飯にして下さい、全然はらぺこです、やあ鯉ですね」彼は膳の前へ坐る、「――すると源助が来たんですか」

「たまきの御祝儀の日を思い違えたんだそうです、またあさって持って来ると云ってましたよ、あなたお汁をあがらないの」