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かずえはいそがしい
主計は忙しい
山本 周五郎
「奇譚」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页
「なるほどね、髭を剃って髪油を付けて、熨斗目麻裃を着たところは捨てたものじゃあない、どうして三百石は安いもんだ」
「おまえがそう云ったってもしようがない、それに式が済めばすぐ質屋だ」
「式といえば何時なんだ」主計は袴の紐を緊めながら云った、「――実はなるべく早く済まして貰いたいんだ、先方が来て座がきまったら帰るからね」
「なんの冗談を云うつもりなんだ」
「いや冗談どころか、もう一つあるんだ」
「幾つあってもいいさ、なにが幾つあろうとこっちはおれの祝言だ、親友のおまえが列席しないで式がやれるかどうか考えてみろ」
「それはそうだけれど、弱ったな、それはそうだけれども、こいつは弱った」
「弱るもくそもあるか、どんなことがあろうと今夜は放さないからそう思え、早くしたくをしないともう向うで来るぞ」
そして六郎兵衛は、向うへいってしまった。主計はうろうろと足袋を穿く、木下の母堂が来て裃を着るのを手伝ってくれる、口のなかで弱った弱ったと云いながら、どうやらしたくの出来たとき、玄関に人の到着したけはいがし、母堂は「まあお着きですよ」と云いながら出ていった。
「おれはどうしたらいいんだ」