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かずえはいそがしい

主計は忙しい

山本 周五郎

「奇譚」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页

青空文庫

「忘れたんだな、金だよ」

「ああ金」主計はびくっとした、「――金だって、おいおい金ってなんの金だい」

「おまえが忙しい人間でなければ、おれは殴るところだぜ」六郎兵衛は拳骨を握ってみせた、「――七日の式の費用がどうしても足らない、済まないが五枚だけ頼むと」

「ああわかったわかった、そうかあれはおまえか、同じような話が三つあったんでどれがどれだかつい眼移りがしちゃって」

「へえーそういうのも眼移りかね」

「まあ怒るなよ、慥かに五枚ひきうけた、しかし明日じゃいけないかね、忘れたというわけじゃないが、なにがあれしてなんだもんだからね、ついあれしてなにがその」

「明日でもいいさ、しかし早くないと困る」

「おれが届けるよ、暗いうちならいいだろう」

「明るくなってからでもいいさ、じゃあ忙しいだろうから帰る」六郎兵衛はこう云って立上った、「――金五枚、明早朝、こんど忘れたら本当に怒るぞ」

「もちろん大丈夫、心得た、が、――おい、式をやるってなんの式だい」

六郎兵衛は振返って大きな眼玉(そのためにそういう綽名のある)を剥いてこっちを睨みつけた。そしてなにも云わずにさっさと玄関のほうへ出ていった。