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びぜんめいきゅうでん
備前名弓伝
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页
そう云ったと伝えている。
伊木長門はそういう人物である。また若手の滝川幸之進というのは、光政が三年まえ二百石で召抱えた新参者で、年は二十八歳、一刀流の剣では達人の腕を持っているという、癇の強そうな、ひと癖ある面魂。腕は出来るのだろうが少なからず高慢なので、あまり人によろこばれない、しかし一風変っている三左衛門は惚れ込んでいる様子で、頼まれもしないのに引廻し役を買って出ている。今日も伊木、山内の二老臣が来るので特に招いたものであった。客はすっかり集まった。
やがて酒が廻りだすと、次第に話題が活溌になってくる。自然例の犬追い物の話が中心だ、赤川、森脇、要の失敗から、ただ一矢で射止めた三之丞の妙技を賞讃する言葉が次から次へと止め度もなく出てくる。ところが、席には陪っていても当の三之丞は酒が一滴も呑めない、さっきから芋の煮付を頬張り頬張り、誰の話かしらんという顔で黙っておる。そのうちに滝川幸之進が膝を乗出した。
「なるほど、一昨日の弓は稀なお手柄御妙技のほど拙者も感服仕ったが、青地氏にひとつお訊ね申したいことがござる」「……はあ」「あの折青地氏には矢を一筋だけ持たれ、命矢はお持ちなさらなかったと存ずるが、見違えでござろうか」