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しゅっけとそのでし
出家とその弟子
倉田 百三
「生命の川 第一巻第二号~第二巻第二号」1916(大正5)年11月16日~1917(大正6)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,812 字 · 248 页
そしてあのこおろぎの鳴くのは、「襤褸針せつづれさせ」と言って鳴くのだ、貧しいものはあの声を聞いて冬の着物の用意をするのだと言って聞かせました。私はその時さびしいような、寒さの近づくような変に心細い気がしたものです。それからはあのこおろぎの声を聞くと母の事を思います。
親鸞 お兼さんがなくなってから何年になるかね。
唯円 ことしの冬が七回忌でございます。
親鸞 ほんに惜しい事をした。あんないいおかあさんはめずらしかった。
唯円 母は私をどんなに愛してくれたでしょう。私は子供の時の思い出をたどるたびに母の愛をしみじみと感じます。
親鸞 左衛門殿からおたよりがありましたか。
唯円 はい、達者で暮らしているそうです。母がなくなってからはさびしくていけないそうです。人生の無常を感じる、ひたすらに墨染めの衣がなつかしいと言って来ました。そして母の七回忌を機に出家したい、私の家を寺にしようと思っている。本尊はあの、あなたから、かたみにいただいた片手の欠けた仏像をまつるつもりだ、と言ってよこしました。
親鸞 とうとう出家する気になったかねえ。
唯円 長い間の願いだったのですからね。