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しゅっけとそのでし
出家とその弟子
倉田 百三
「生命の川 第一巻第二号~第二巻第二号」1916(大正5)年11月16日~1917(大正6)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,812 字 · 248 页
かえで なんの苦も無さそうに見えるのね。(間)私も一度あのころに返ってみたいわ。あのころはしあわせだったわ。まだおとうさんが生きていらっしゃるころは。
唯円 あなたにはおとうさんが無いのでしたね。私にはおかあさんが無いのですけれど。
かえで あなたのおとうさんはどこにいらっしゃるの。
唯円 国にひとりいます。常陸の国の田舎に。
かえで 常陸と言えばずいぶん遠いのでしょう。
唯円 えゝ。十何か国も越えた東のほう。あなたのおかあさんは?
かえで 播州の山の奥よ。病身なのよ。(考える)おとうさんのないのと、おかあさんの無いのとどちらが不幸でしょうか。
唯円 おかあさんが無いと、着物のことなんか少しもわからなくて、それは困りますよ。
かえで でもおとうさんが無いと暮らしに困ってよ。私なんかおとうさんさえいてくだすったらこのような身にならなくてもよかったのだわ。
唯円 もうよしましょうよ。自分らのふしあわせの比べっこをするなんて、ずいぶんなさけない気がします。
かえで 私は子供の時には家の貧乏な事など少しも気にならないで、お友だちとはねまわって遊んだわ。けれどもそのような時は短かったの。