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しゅっけとそのでし
出家とその弟子
倉田 百三
「生命の川 第一巻第二号~第二巻第二号」1916(大正5)年11月16日~1917(大正6)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,812 字 · 248 页
来た当座は泣いてばかりいましたわ。けれど泣いたとて、どうもなるのではなし、くよくよ思うだけ損だと思って、いっさい考えない事にしてしまったのよ。きょう一日がどうにか過ごされさえすればいいと思うことにしたのよ。だって行く末の事を案じだしたら、心細くて、とてもこうやってはいられなくなりますもの。
浅香 私もあなたのような気分になりたいと思うのよ。またそうなるよりほかにしかたもないのですしね。けれど生まれつき苦労性とでもいうのでしょうかね。ものが気になってならないのよ。(間)私もね。もう行く末の事などそんなに考えはしないのよ。だけどきょうの一日が味気なくて、さびしくてならないの。
村萩 あなたはほんとうに陰気なかたね。あなたと話していると私までつり込まれてさびしくなるわ。そして忘れている――というよりも、忘れようと努めている不幸を新しく思い出しますわ。(間)えゝ。よしましょう。よしましょう。こんな気のめいるようなお話は。今は陽気な春ではありませんか。もっと楽しい話でもしましょうよ。
浅香 ほんに春の宵なのね。
村萩 町も春めいてずいぶん陽気になりましたよ。今晩方も店に出ていたら、格子の外を軽そうな下駄の音などして、通る人は花のうわさをしていましたよ。