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しゅっけとそのでし
出家とその弟子
倉田 百三
「生命の川 第一巻第二号~第二巻第二号」1916(大正5)年11月16日~1917(大正6)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,812 字 · 248 页
(間、声が少しく高くなる)わしは今不思議な地位に立っている。わしの後ろには九十年の生涯の光景が横たわっている。そして前にはあの世の予感が満ちている。わしのたましいは、最も高く挙げられ、そして驚くべき広がりに達している。魂の壮観!(夢幻的になる)霊はいま高く高く天翔って、人間界の限りを越えようとしている。墓場のあちらとこちらとの二つの世界の対立と、その必然の連絡とが、わしの心の眼に見えようとしている、魂をつないでいた見えぬ鎖が今切れようとしている。打ちかちがたくあきらめられていた地上の法則が滅亡して、魂は今新しき天の法則の支配にはいろうとしている。試みられ煉められたる魂は新生のよろこびにおどっている。今こそすべての矛盾が一つの深い調和に帰しようとする。そしてこの世でのさまざまの苦しみが一つとしてむだでなかったことがわかろうとしている。あゝ。それがみな仏様の愛と義の計画であったことがわかろうとしている。(しみじみとした独白のごとくになる)なにもかもよかったのだな。わしのつくったあやまちもよかったのだな。わしに加えられた傷もよかったのだな。ゆきずりにふと挨拶をかわした旅の人も、何心なく摘みとった道のべの草花もみなわしとはなれられない縁があったのだな。