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なんぼく

南北

横光 利一

「人間」1921(大正10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页

青空文庫

六

「そんなことせんと、ここで休ましといてやらえな。」とお留は云った。

「何アに此の餓鬼、贋病使うてくさるのや、あっこまで歩けんことあるものか。」

「痛いが、痛いが、痛いたら!」と安次は云った。

「やかましい、歩け歩け!」

秋三は忙しそうに安次を曳いて、勘次を見守りながらまた南の方へ下って行った。

お留は安次に渡した一円の紙幣が庭に落ちているのを見ると、走って行って渡そうかと思ったが、しかしそれでは却って追い出すようでいけないし、

「まア好えわア。」と彼女は呟いた。

それより此の次もう一円増してやる方が、息子の無情な仕打ちを差し引いて功徳になるように思われた。彼女は台所へ戻ると又土瓶を冠って湯を飲んだ。

六

勘次は後から追って来る秋三の視線を強く背中に感じ出した。足がだんだんと早くなった。それに何ぜだか後を見ていることが出来なかった。竹藪を廻ると急に彼は駈け出したが、結局このままでは自分から折れない限り、二人の間でいつまでも安次を送り合わねばならぬと考えついた時には、もう彼の足は鈍っていた。そして今逆に先手を打って、安次を秋三から心良く寛大に引き取ってやったとしたならば、自分の富の権威を一倍敵に感ぜしめもし、彼の背徳を良心に責めしめもする良策になりはしないか、と考えついた時には、早や彼は家に帰って風呂の湯加減をみる為