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なんぼく

南北

横光 利一

「人間」1921(大正10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页

青空文庫

十

「まア事は何でもあたってみよや。組長さんに相談してみよにさ。」

「そうしてみるか?」

「なア? わし、これから行って来るわ、事は何んでも当って見よや。何も母屋や株内や云うたかて名だけや。わし一寸これから行って来うぞ。」

お霜は外へ出ていった。

「しぶったれ!」と秋三は奥庭から叫んだ。しかし、勘次と反馳してゆくお霜の出方がますます彼を喜ばしめた。

「こりゃ面白い、こりゃ面白い。」と、秋三は膝を叩いて喜び出した。

お留は丸帯の汚点をランプの下に晒してみた。小指の爪で一寸擦ると、

「こりゃ姉やんに持って来いやがなア。」と云いながらまた奥の間へ這入っていった。

十

安次の小屋が組から建てられることに定ったと知ったとき、勘次は母親をその夜秋三の家へ送ったことを後悔した。しかし、今はもうその方が何方にとっても得策であるに拘らず、強いてそれを打ち壊してまでも自分は自分の博愛を秋三に示さねばならないか? いやそれよりも、一体秋三とは何者か? そう思うと、彼は今一段自分の狡猾さを増して、自分から明らかに堂々と以後一家で負う可き一切の煩雑さを、秋三に尽く背負わして了ったならば、その鮮かな謀叛の手腕が、いかに辛辣に秋三の胸を突き刺すであろうと思われた。