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なんぼく

南北

横光 利一

「人間」1921(大正10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页

青空文庫

七

「しっかり、養生しやれ。」

秋三は嘲弄した微笑を勘次に投げた。

「ええか、頼んだぞ。」と彼は云うと、威勢好く表へ立った。

勘次は秋三の微笑から冷たい風のような寒さを感じた。彼は暫く庭の上を見詰めたまま動けなかった。

「すまんこっちゃわ、えらい厄介かけてのう、大きに大きに。」

勘次も安次に叩頭されればされる程、不思議に安次を軽蔑したくなって来た。彼は黙って裏の井戸傍へ立って来た。が、秋三の冷たい微笑を思い出すと身体が竦んで固まった。彼は秋三に追いついて力限り打ちめしてしまいたかった。恋人との婚姻もこのまま永久に引き延ばしていたかった。そして、安次を最も残忍な方法で放逐して了ったならば、彼は秋三の嘲笑を一瞬にして見返すことが出来るように思われた。

七

安次は股引の紐を結びながら裏口へ出て来ると、水溜の傍の台石に腰を下ろした。彼は遠い物音を聞くように少し首を延ばして、癖ついた幽かな笑いを脣に浮かべながら水菜畑を眺めていた。数羽の鶏の群れが藁小屋を廻って、梨の木の下から一羽ずつ静に彼の方へ寄って来た。

「好えチャボや。」と安次は呟いて鶏の群れを眺めていた。

お霜は遅れた一羽の鶏を片足で追いつつ大根を抱えて藁小屋の裏から現れた。