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なんぼく

南北

横光 利一

「人間」1921(大正10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页

青空文庫

四

「おい、南の勘とこへ行かんか。あいつはお前とこの株内や。」

「肴屋か。あんなけちんぼは、俺とこの株内やないぞ。」

「そうかて谷川って云うのは、あの家一軒ばち有るか。お前とこの株内や。」

「だいたいあの家、俺は好かんのや。」

「贅沢ぬかしてよ。俺が連れてってやるぞ。立て立て。」

「あっこはとても駄目って。」

「あくもあかんもあるもんか。手前、あっこへのたり込むのが当り前じゃ。」

「あかん、あかん。」と云って安次は頭の横で泳ぐように両手を振った。

「ぐずぐずぬかすな!」

秋三が安次の首筋を持って引き立てると、安次は胸を突き出して、「アッ、アッ。」と苦しそうな声を立てた。

「早よ歩けさ。厄介な餓鬼やのう!」

「腹へって腹へって、お前、負うてくれんか!」

「うす汚い! 手前のようなやつ、負えるかい。」

安次は片手で胸を圧えて、裂けた三尺のひと端を長く腰から垂らしたまま曳かれていった。痩せた片肩がひどく怒って見えるのは、子供の頃彼の家が、まだ此の村で安泰であった時と同じであった。そして、まだ変らぬものは、彼の姿を浮かばせている行く手に固まった安泰な山々の姿であった。

四

西風が吹いて来た。