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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

在线阅读直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 页

青空文庫

それから、棚には呼遠筒が、薄く光っていた。

誰かを呼びたい、ような気もしたが、自分の気の迷いで、人を呼ぶのも恥かしかったから、心切りを持ち直して、燭台を見ると、前よりも薄暗いようであった。蝋燭の灯が、妙に黄ばんでいて、蔀屋の中が、乳白色の、霧のようなもので、満たされているようであった。

(和子は――)

と、寛之助を見ると、よく眠入っているし、その愛らしい睫毛さえ、はっきりと判ったから、安心して、部屋の異状を、見定めようとすると、その乳白色の空気が、薄暗い屏風の背後へ、流れ込むように動いていた。

七瀬は、蒼白になって、息をつめて、膝を握りながら、自分の恐怖心にまけまいと、それを、じっと眺めていると、霧の固まりが屏風の背後で、ぐるぐる廻り出したように見えた。そして、屏風が、はっきりと眼に見えていながら、屏風の後方が、屏風を透して見えているように思えた。

(夢かしら?――夢ではない)

と、思った瞬間――部屋の中が、急に、四方から狭められたように感じられてきて、畳が、四方の隅から、じりじりと、押上がってくるように思えた。

七瀬の手は、いつの間にか、守り刀の袋へかかっていた。