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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
在线阅读直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 页
憤死事件
眉を立て、眼を怒らせ、口を張った魔天の形は、巧みではなかったが、人に迫る凄惨さを現していた。
仲太郎の膝の右には、青磁色の鉢があった。その鉢の中に、淀んでいる赤黒い液体は、犬の血と、牛の血と、仲太郎の腕の血との混ったものであったし、魔天を描いている筆は、十三人の人間の生き毛と、八種の獣の毛とを合せて造った筆であった。牧は、その筆に、その血をつけて、一筆を下すたびに
「南無、大忿怒明王、法満天破法、十万の眷属、八万の悪童子、今度の呪法に加護候え」
と、呟いたり、口の中でいったりしていた。
(調所殿が、敵党の奸策にかかって、毒死なされた上は、是非もない)
と、仲太郎は、決心したのであった。ただ一人、仲太郎の苦衷を知っている調所の死んだということは、仲太郎を落胆させると同時に、狂憤せしめた。
(是非もない――かかる上においては、恩師と雖も容赦すまい。調所殿を殺す人間に、本当の、人間の値打は判るまい。まして、謂わんや、怪奇にして神業の如き、この呪法の判ろう道理がない)
牧は、ただ一人の、心からの信仰者にして、且、庇護者である調所を失ったことが、淋しくもあったし、情なくもあった。