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なつむしあんどん

夏虫行燈

吉川 英治

「婦人倶楽部 別冊付録」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,200 字 · 37 页

青空文庫

二

『江戸から来ている――おれ達の連れの浪人達は、そんな筋から、ここへ寝泊りしているのじゃないか』

『よく……存じませんが、何しろまあ、どうぞ』

『いや、ちょっと聞いておきたいのだ。御加役の御子息、市之丞どのは、何日見えられたえ』

『今朝ほども、お見えになりました』

『今朝ほども――か。成程』

『蚊がひどう御座いますから、どうか、中へお這入り遊ばして』

『奥に泊っている浪人たちは、何と申す名だな』

『えっ……御存じないので』

『忘れたのだ。まだ浅いつきあいだから』

『お一人は、菅馬之助様、御一名は、服部太蔵様と仰っしゃいます』

『どこにいる』

『この広い廊下を突き当って、右の端れの広間を御寝所にしていらっしゃいますが、お起し申して参りましょうか』

『それには及ばん。――おい坊主ちょっと出い。戸外へ出い』

『な……なんでござりまするか』

平四郎は、僧侶の襟元をぐいと掴みよせて、怖しい眼で睨みつけた。

『怪我をしない所へ行っておれ。そして、静かにするのだぞ。声を立てたら、斬り捨てるぞよ』

二

柳町の燈に飲み歩いて、今し方、大酔して帰って来るなり、寝汚なく夜具の上に身を抛り出した二人だった。