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おおえどおうごんきょう

大江戸黄金狂

野村 胡堂

「新青年」1939(昭和14)年11月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页

青空文庫

お染の災難

「――――」

「私も、赤崎さんも、お前さんも、その糸で操られて、銘々一番賢い積りで見得を切って居るのさ」

「誰だい、その糸を引いてる野郎は」

「判らない、少しも判らないから口惜しいじゃないか」

お滝はそう言って二子山のあたりを仰ぎました。もう傾きかけた陽、約束の八月十五日の日没へ一刻半ともありません。

お染の災難

「お女中、待たれい」

恐ろしく錆の乗った声、お染はハッと立ち竦みました。

「ハ、ハイ」

「何処へ行かれる、――此処は箱根の裏道、女人の身で押し通ると、磔刑柱を背負わされるが承知かな」

五十日月代、腐った羽二重、朱鞘を落して、麻裏草履を浅ましく突っかけた姿は、言う迄もなく浪人者赤崎才市です。

「――――」

お染は何んと言って宜いか解りませんでした。伴の万田龍之助が、雲助風の変な男に連れて行かれてから、幻に誘われるような心持で、山から山へ、谷から谷へ、幾里さ迷い歩いたことでしょう。フと気が付いた時は、とある屏風岩の下に崩折れて、無気味な浪人者にマジマジと見おろされて居たのでした。

「ところで、お前のつれの若侍――万田龍之助とか言ったな、――あの男は首尾よく罠に落ちてしまったよ」