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おんなはおなじものがたり

女は同じ物語

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1955(昭和30)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,279 字 · 44 页

青空文庫

広一郎はのぼせあがって訊いた。そんなに泣くのは相手が嫌いだからか。はい、と紀伊は答えた。それだけで泣くのではないが、相手は好きではない、自分は「いやだ」とはっきり断わったのである、と云った。それで相手は承知しないのか。そうのようです。しつっこいやつだ、と広一郎は云った。相手はなに者だ。お武家です。家中の者か。そうです、御中老の佐野さまの御長男です。すると要平だな。そうです。あの平家蟹め、と広一郎は云った。よし、彼のことは引受けた。でも、紀伊は云った。乱暴をなすっては困ります、あの方はお強いそうですから。いや大丈夫、私は暴力は嫌いだ。本当ですか。大丈夫だ、あいつのことは安心していい、と広一郎は云った。もう一つの理由を聞こう、泣いた理由はほかにもあると云った筈だ。ええ申しました、でもそれは、……紀伊は眼を伏せた。云えないのか、縁談のことさえ云ってしまったのに、もう一つの理由は云えないのか、と広一郎は問いつめた。

紀伊はますます頭を垂れた。見ると耳まで赤くなり、呼吸も深く大きくなっていた。広一郎は恐怖におそわれた。

「おまえ」と彼は乾いた声で云った、「ほかに好きな人がいるんだな」