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いかなるほしのもとに
如何なる星の下に
高見 順
「文藝」1939(昭和14)年1月号~1940(昭和15)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,508 字 · 236 页
話で聞いたぶんにはおもしろいネタだが、客の前に出すとなると、何かつまらないのかもしれない。
そこへ、朝野の話に出てくる婆さんというのはかくやと思われる、だがこれはそう婆さんという齢恰好でもない、だがしかし感じは婆さんのような女が、ちびた駒下駄を鳴らしてやってきて、末弘と挨拶をすると、あたふたとT館のなかに入った。
「あれは天中軒トコトンさんのおかみさんで……」
「ほう」
「ここの地方をやっているんですよ」
「地方?」意味を聞いたのだが、
「ええ」とうなずいて「この間、なったばかしで……」
「トコトンさんは健在?」
「相変らずですわ」
「相変らず紙袋貼り……」
「それからチョコチョコ走り……」
――朝野はもとよく「惚太郎」に行っていたというから末弘を知っているはずだが、知らん顔をして通り過ぎて行き、末弘も知っているはずだが、私に朝野のことは何も言わなかった。
結局K劇場へ行かないで、私たちはまっすぐ田原町の方へ行き、広小路に出た。東西に走っているその広小路通りは、公園寄りの南向きの片側にだけ陽がさして片側は全然陽が当らない。そのさむざむとした何か昼なお小暗い感じさえする片方に、冬の寒さがみんな寄り集まったようで、日向の方は、幸い風もないので、日向ぼっこの猫みたいに背を丸めてうずくまって眼を細めたくなるような快さであった。