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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

そのように躯が大きく、ものすごいつら構えの犬は、むしろ温和しくて無害だと、犬好きの人はよく主張する。慥かに、まるも平生は温和しいうえに臆病者で、自分の半分もないような犬ににらまれても、しおれた顔で眼をそらすか、物蔭へ隠れにゆくというふうであった。他の犬と喧嘩をしたこともないし、怪しげな人間に吠えかかる、などということもない。――にもかかわらず、その子供を「のんべ横丁」でみかけるとたんに、唇を捲って歯を剥き出し、重量感のある巨躰を誇示するかのように、のそりのそりと寄って来るのであった。

人と毛物のあいだにも、合性のよしあしとか、にが手とかいうものがあるらしく、まるには子供が気にいらないようだし、子供のほうでもまるにはかなわないのだろう、提げている古鍋に残飯がはいっているときには、それをすっかり地面にあけて逃げるし、まだなにも貰っていないときには、三つの古鍋を一つ一つ、中になにもないことをまるによく見せてから、その夜の貰いを諦めて帰るよりほかはなかった。むろん、まるは残飯などには眼もくれないのであるが。

三人組の少年たちは、一般にちんぴらと呼ばれる連中で、なんの必要も理由もないのに、弱そうな者をみつけると威したり、殴ったり、持ち物を奪ったりすることに英雄的快感を覚え、それだけが生きるたのしみだと信じている