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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「だいじょぶだよ、心配しなくってもいいよ」子供は父を力づけるように云った、「ぼくはもうすぐ治るよ」
「そりゃあそうさ、そんなことは心配なんかしてやしないがね」父親は自分の腹を撫でた、「こういうときは絶食がただ一つの治療法なんだが、――それにも度があるんでね」
子供は済まなそうな眼で父を見た。父はもう治ったから、なにか喰べなければならないのだ。おそらく腹がへって耐えられなくなったのだろう。そしていま自分に、そのことを訴えているのだ、ということが子供にはよくわかった。
「ぼく、あるけるといいんだけれどね」と子供は云った、「もうすぐあるけると思うんだけどな」
「おう、おう、とんでもない」父親は手を振った、「きみにのんべ横丁へいってくれなんていうわけじゃないさ、どうしてもなにか喰べなくちゃならないとしたら、おれだって自分でいって来るよ、そうじゃないんだ、それほどまだ腹はへってやしないんだ、この下痢というやつには、絶食するしか療法はないんだし、絶食は長く続けるほどあとのためにいいんだ、空腹といったって、人間は十日や十五日飲まず食わずでいても、死ぬもんじゃないんだな」