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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
子供は皺だらけになった顔をするどく歪め、腹を押えながら躯をくの字なりに曲げた。腹が痛みだしたのか、下痢が始まろうとしているのだろう。呻き声を出すまいとして歯をくいしばり、躯ぜんたいが円になるほど身をちぢめた。
父親にはそれが見えないのだろうか、彼は眩しそうに子供から眼をそらし、入口の垂れ布を捲って小屋を出た。――子供の容態はもう尋常ではない、躯はすっかり肉がおち、皮膚は老人のように皺たるんでいる。便には血が混りだしたし、間隔は短くなるばかりであった。それが父親である彼には見えないのだろうか、知っていて見ないふりをし、自分を自分でごまかそうというのだろうか。――小屋から出た彼はちびた下駄をはき、脇にあるビールの空箱に腰を掛けた。彼の顔はまったく無表情で、眠っているようにとろんとした眼で向うを眺めながら、音をさせないように長い太息をついた。
「洋館の応接室だがね」と父親は小屋の中の子供に話しかける、「スコットランドふうにするというアイディアは考え直すことにしたよ」
彼は自分の腹がくうと鳴ったので、いそいで声を高くしながら、応接室の新しい構想について熱心に語った。