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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
見知らぬ街の中でとつぜん親に捨てられ、これからどうしていいか、誰に頼ったらいいか見当がつかなくなり、まさに泣きだそうとしている幼児のように。――
夜の十時ころ、小屋の外でうずくまっていた父親は、よくよく思案したうえのように、三つ重ねた古鍋へ手を伸ばした。
「そうなんだな、人間は食わずにはいられない」彼はぶつぶつと呟いた、「病人だって、いつまで食わせずにおけるわけはないんだ」
それでもなお迷っているようすだったが、やがて決心をしたといいたげに、重ねた古鍋を提げて立ちあがった。
「ちょっといって来るよ」
父親は小屋の中へ呼びかけた。
「のんべ横丁までな、すぐ帰って来るからね、なにかうまい物を貰って来てやるよ」
彼は子供がいつも話している、すし定とか、花彦などの名を、記憶の底のほうから拾いだしながら夜の街へでかけていった。――そして約一時間のちに、口の中でなにかを噛みながら帰って来ると、古鍋を下に置いて、小屋の中を覗きこんだ。
「いま帰ったよ」と彼は云った、「きみが腹をこわしてると云ったらさ、花彦のマダムがそれはいけないって云って、うまい物を呉れたよ」
「ねえ」