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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
さあきみ、すぐにその子を抱いて医者へゆきたまえ、治療代のことなんかあとでどうにでもなる。とにかく医者へゆくんだ、そんな地面になんぞ寝かしておいてはいけない、すぐに病院のベッドへ移さなければだめだ。わからないのかきみ、手おくれになるぞ。
父親はのそっと立ちあがり、大きな欠伸をした。
飼い犬が主人の顔を見ると、まず尻尾を振るまえに大きな欠伸をする、あれはどういうことだろうか。――子供の父親である彼も、いまそんなときでもないのに、大きな口をあいて欠伸をした。これはどういうことだろう、退屈したのだろうか、途方にくれたのだろうか。――云うまでもなく、それは飼い犬のする欠伸と似ているところはない。彼の欠伸は、主人を見てよろこびの情をあらわすようなものとは、まったく反対な感じをもっていた。
発病してから五日めの午後、子供は殆んど意識不明になった。ときたま云ううわ言も、なにを云うのか聞きとれなかったし、話しかけても答えはなかった。
父親は小屋から出たりはいったりするばかりで、子供には手を触れようともしなかった。
彼は一人の子の親ではなく、むしろ親に捨てられた幼児のようにみえる。