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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

と富川さんは云った、「引越して来たばかりだからな、引越して来たばかりでまた、もう世帯じまいをするのかと思ったからね」

もちろん誤解であったし、島さんはそれから数日のちに、近隣の人たちを招いて酒をふるまった。

「晩めしのあとで来て下さい」島さんはそう云って廻った、「なんにもありません、ほんの顔つなぎだと思って下さい」

彼は十四、五軒をそう云って廻ったが、実際に来た客は五人だけであった。来なかった人たちの大部分は、明日のたべ物を稼ぐため、外へはたらきに出るとか、内職の夜なべで手があかなかったのだ。

五人の客の中に、みんなから先生と呼ばれる、五十年輩の男がいた。背丈は一メートル五十ちょっとで、痩せていて白髪頭で、しかしまっ黒な口髭をぴんとはね、やはりまっ黒な顎鬚をたくわえていた。眉毛も黒くて太く、その下にある眼は並はずれて大きく、人を見るときには、いや笑うときでさえも、まるで威嚇するようにぎょろっと光った。――すり切れて地の薄くなった、黒というよりは小豆色にちかいモーニングに、膝のところがまるくふくれた縞ズボンをはき、そのくせ靴下なしの素足であった。

「ごめん」