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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

そうして、小田滝三といっしょに帰ってしまった。

小田滝三はわけがわからないので戸惑い、外へ出るといそいで理由をきいた。有力者は鼻をならして、あれらの品は全部いかさまだということを、その道の術語で云った。長火鉢の桐は張ったものだし、桑材の茶箪笥も、春慶塗の卓も、塗料を使ってそれらしい色と木目を付けたものであり、南部鉄の火箸も金銀の象眼ではなく、真鍮とニッケルのメッキだという。鍋も釜も底に穴があいていて、屑鉄の値にしかならない。どれ一つとしてまともな品はない、あんな物にうっかり手を出すとひどいめにあうぜ、と有力者は注意した。

小田滝三は頭を掻いて、こんなこととは知らないものだから、大事な暇をつぶさせて申し訳がないと、繰り返しあやまった。

「髭なんぞ立てやがって」と有力者は云った、「――へ、ふざけた野郎だ」

島さんはべつの古物商を呼んで来て、それらの品を始末したらしい。右隣りの富川さん夫婦の話によると、小田滝三の呼ばれた次の夜、もう九時すぎたじぶんに、島さんの家で器物を動かす音と、低い声で値段のかけあいをしているのが聞えたそうである。

「身につまされたね」