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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
尤も一長一短で、かれらは七代目のように、春彦の饒舌をおとなしく聞く能力はなかった。話が自分の関心事に及ぶと、黙っているだけの忍耐力を失い、口べたは口べたなりについ自分の意見を述べる、ということになった。しかしそれには春彦も、不本意ながら一歩をゆずった。がまんがならないのは、異論を述べることさえもせず、卑怯にも眠ったふりをするような者がいたことで、むろんそんな男は同居人としても長続きはしなかったのだ。
ばんくんは徹底した無為徒食主義者ではあるけれども、聞き役としては満点に近い資格の保持者であり、したがって春彦は、従来のどの同居人よりもこの七代目が気にいっていた。
「人間には合性というものがあるんだな、きみ」とちょろが云う、「ぼくは女房を八人、――いや、正確には十人持ったがね、みんな合性がなかったんだろう、長いので二年、これは一人っきりで耳の遠い女だった。塩鯖の焼いたのが大好物で、或るときなんか味噌汁にまで入れて喰べたんで仰天したっけ、その女のことを思うといまでも塩鯖を焼く匂いが鼻につくくらいだ、耳が遠いと鼻や舌なんぞも幾分かなまるんじゃないかな」
土川春彦が十人の妻について語るのを、七代目は辛抱づよく聞いていた。