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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

部屋は六帖一と間しかない。そこへちゃぶ台一つと、なにかの空箱を重ねて並べ、その上へ張板を二枚のせたのが食卓で、洗った敷布が掛けてあるから、中の仕掛は見えないけれども、肱を突いたりよりかかったりすると、ひとたまりもなく解躰してしまうから、島さんは初めに念を押して断わった。

部屋には古くて傷だらけの箪笥と、鏡にひびの入った鏡台と、柳行李と瀬戸の火鉢、などが眼につくだけで、ほかにこれという家財道具はみあたらなかったが、六帖の広さには変りがないから、主人と客たちが食卓を囲むと、もう身動きもできないように思われた。

二リットル壜に半分の酒と二リットルそっくり詰っている焼酎が出され、大きな丼鉢の片方にあみの佃煮、片方に大根なます、どっちも山盛りになっていて、取り箸がいちぜん。盃の代りには茶飲み茶碗が六個、――みんな大きさも形もまちまちであるし、そのうち三個は、隣りの富川さんから借りたものであった。

「きまりきった挨拶はやめ」と云って島さんはごくっとおじぎをした、「僕は島悠吉、――どうかよろしく」

「それがきまり文句だ」と寒藤先生は茶碗を取り、それに焼酎を注ぎながら云った、「――よろしくと云われたって、ここの住民には人の面倒をみる能力を持った人間は一人もおらん、きみ自身もそんなことを考えちゃおらんだろう」