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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「こっちのちっこいのがふな」と彼は答えた、「こっちの大きいのがこいでねがす」
「まあ、鮒と鯉ですって」
「そうでねがす」
「まあいやだ」中年婦人は袂からハンカチーフを出して鼻を押えていった、「鮒だの鯉だのって、きみのわるい、おーいやだ」
そしてバス・ストップのほうへ去っていった。
「ちぇっ、田舎者が」と土川春彦は鼻柱へ皺をよせ、脇のほうへ睡を吐いた、「ああいうのを典型的なざあます人種っていうんだろうな、知りもしないくせにきみがわるいだってやがる、てめえのほうがよっぽどきびがわるいや、へっ、なんだ、めがねなんぞひけらかしゃあがって、あんなめがねなんぞにびっくらするような、――へえ、おいでなせえまし」
彼はあわてて独り言をやめ、おじぎをした。五十年配の紳士が近よって来、二つの容器をのぞきこんだのだ。肥えているときに作った背広が、当人の痩せたためにサイズが合わなくなったのか、上衣もズボンも生地は高価らしいのにだぶだぶに皺だるみ、ヒップのところなどは袋のように垂れていた。紳士は左手に持っていたぺしゃんこの手提げ鞄とステッキを右手に持ち替えて、鞄だけ脇に挾み、ステッキの先端でペーブメントをたたきながら、容器の中の魚類を見、その眼で土川春彦を見た。